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Educe Club Newsのバックナンバー


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 『Educe Club News』【第14号】知的好奇心1(心に火をつける)
                            発行:2012.11.29
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成プロフェッショナルの皆様に、役に立つ情報を配信していきます。

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                       『Educe Club News』事務局


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 目 次
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  ■ 『Educe Club News』
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 【1】 知的好奇心1(心に火をつける)
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 【2】 融和
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 【1】 知的好奇心1(心に火をつける)
                 教育エンジニアリング研究所 木村 利明
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 ウィリアム・ワードという人(米:牧師・作家・教育者)が、教師のレベルに
ついて、こう述べています。

 凡庸な教師は教える(ただ話す)。 The mediocre teacher tells.
 良い教師は(分かりやすく)説明する。 The good teacher explains.
 優れた教師は実例を示す。 The superior teacher demonstrates.
 偉大な教師は、心に火をつける。 The great teacher inspires.

 この最後の「心に火をつける」というのはどういう意味なのでしょうか。
 inspireは直訳すると「霊感を与える」ですが、それではちょっと怪しさが漂
いますので、「感動させる」「鼓舞する」が適切な訳ではないかと思います。
「心に火をつける」は名訳ですね。
 私は、これを、学習者に「もっと学びたい!」と思わせること、すなわち学習
意欲を植え付けることだと解釈しています。
 言葉を変えると「学習への動機付け」ですが、日本語であえて「心に」とある
のは、(報酬や罰などの)「外発的動機付け」ではなく、「内発的動機付け」で
あることを示していることになります。

 しかし、これ(内発的動機付け)は、なかなか難しいことですよね。
 ワードさんも「偉大な教師は」と言っているくらいですから。

 一行目で「凡庸な」と訳されている英語mediocreは、そもそも「中くらい」を
意味しますから、いわゆる「普通の教師」のことなのですね。
現に、教科書をその通りに教えているだけの教師が世の中の大半であるという見
方からすれば、ほとんどの教師が「凡庸」ですね。ちなみに、凡庸は「(普通で)
とりえがない様子」という意味ですので、褒め言葉ではありません。
ワードさんによれば、ちゃんと(分かりやすく)説明できれば「良い教師」なの
ですが、世の中、そのレベルの教師でさえあまりいないかも知れませんね。私の
友人(皮肉屋ですが)などは「学校の先生にそれを望むのは無理だね。それがで
きるのは塾の講師ぐらいだよ」という辛らつな言葉を吐いたりします。

 先回、私は「ハングリー精神」というテーマでこんな趣旨のことを書きました。
1.PISA(学習達成度調査)でテスト初参加の上海がダントツ1位という成績を
収めたのは「ハングリー精神」によるものであろう。
2.昔の日本にもそれがあったが、高度経済成長を成し遂げて「豊か」になって
しまった現在は、残念ながらそれは失われてしまった。
3.「ハングリー精神」は、状況を自ら何とかしようという、内から芽生える欲
求(内発的動機付け)なので、他者がそれを植え付けようとしても、そこにはや
はり無理と限界がある(外発的に危機感を煽ることぐらいしかできない)。

 教育する側が「凡庸」であろうとなかろうと、「ハングリー精神」を持つ人間
にとっては関係がない(穏やかな言い方をすると「さほど影響がない」)ですね。
自ら学ぼう、自ら働こうという人たちは、周囲がどうあれ伸びていきますから。
 そういう時代ならば、教師がmediocre(凡庸)でも「まぁいいや」です。Good
(良い)教師がいれば御の字で、superior(優れた)教師やgreat(偉大な)教
師などにはめったにお目にかかれなくても良い。それでも世の中は回るし、教育
もなんとか成立します。

 「ハングリー精神」の失われてしまった今はどうでしょう…そういうわけには
いきませんよね。
 やる気のない学習者を前にして、「やる気がない学習者には教えられない」で
済ましていては、教育がもう成立しないのです。
 すなわち、ワードさんのいう「教師のレベル」がシビアに問われる(教育の品
質にそのまま反映されてしまう)時代になりました。
もはやmediocre(凡庸な)教師では通用しません。説明が上手いだけのGood(良
い)教師もさほど教育効果を上げられないかも知れません。superior(優れた)
教師やgreat(偉大な)教師が必要になってきたのです。

superior(優れた)教師は実例を示す(demonstrates)。
 これは、まさに「ケーススタディ」「ケースメソッド」を活用した学習を表し
ていますね。これに関しては、以前(2011年10月創刊号)マイケル・サンデル教
授『白熱教室』…で取り上げています。

 問題は、great(偉大な)教師は、心に火をつける(inspires)…です。
 ちっとも偉大(great)じゃない(カリスマ性もない)私たちが、学習者の
「心に火をつける」ためにはどうしたらよいのでしょう。
 これはもう、何とかして(何とかして…です)学習すること自体を「面白い!」
と思わせるしかないですね。
 つまり、「知的好奇心」を喚起させること…それが、学習者の「心に火をつけ
る」唯一の術(すべ)ではないでしょうか。

 昔から「生きることは知ることだ」とか「朝に道を聞かば夕べに死すとも可な
り」という言葉があるように、人間にはもともと「知りたい」という欲求(知識
欲)がDNAに組み込まれているはずですよね。
 どうやら、これからの教育は、その原点に立つ…人には「知的好奇心」がある
ことを前提にする…ことから始める必要がありそうです。

 と、ここまで書いておきながら、でもね…という、まだ物足りない気持ちが私
自身にもありますので、この「知的好奇心」というテーマは次回も続けたいと思
います。


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 【2】 融和
                 教育エンジニアリング研究所 原田 一敏
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 「創造性開発」。

 そういう一見あやしげな授業科目が、かつて私の母校にありました。IT系の学
校でありながらこの科目。しかも必修。あやしげなのは科目名だけに留まりませ
ん。担当の先生も、映画「Back to the Future」に登場する某博士のようなタタ
ズマイ。これは一体何なのか…と、当時は非常に困惑したものです。今回、その
中身や先生については割愛しますが、実に多種多様な演習課題を与えられた科目
でした。

 「創造性」、「創造力」というと、芸術家のようなごく限られた職業や仕事に
だけ求められる能力のように考えられがちですが、決して特別な人だけが持つ特
別な能力というものではありません。行動科学論として広く浸透しているマグレ
ガーの「XY理論」でも、Y理論の人間観として「問題解決のために高度な創造
性を発揮する能力は大部分の人に備わっている」と説明されているように、多く
の人がもつ極めて身近な能力といえます。何もないところから独創的にものごと
を生み出す能力というものではなく、いわゆる「問題解決能力」そのものであり、
IT業界のように高度な知的作業が要求される分野では、関係がないどころか特に
欠かすことのできない能力の一つといえるでしょう。

 創造性は、実に多様な要素が複雑に絡み合って構成されています。創造性研究
の第一人者であるアメリカの心理学者ポール・トランスは、創造性を構成する主
要な要素として「知的好奇心」や「洞察力」、「柔軟性」に「論理的思考」、
「メタ認知」、「価値観」など、20種に渡る性質を挙げています。創造性を伸ば
すためには、それだけ多様な面からのアプローチが必要ということになるのです
が、ここで忘れてはならないのは、「それぞれを別個に伸ばしたところで、トー
タルとしての創造力が伸びるというわけではない」ということです。

 ここで少し創造性とは別の話題に移りますが、最近、司馬遼太郎の短編で「喧
嘩草雲」という小説を読みました。主人公は「田崎草雲」。幕末?明治という動
乱の時代の中、後に帝室技芸員にも選ばれた屈指の日本画家です。若い頃の草雲
は、作品の評価もそれほど高くなく、人一倍の気勢を持て余し、「あばれ梅渓」
(梅渓は若い頃の名)と仇名されたほどの暴れん坊でした。
以下余談ながら…、この田崎草雲、若い頃にアメリカの水兵と喧嘩になりました。
この水兵はボクシングの使い手だったのですが、草雲は得意の柔道技でこれを撃
退しています。この戦いは、現在残されている記録の限りで「日本における最初
の異種格闘技戦」とされています…。

 さて、そんな草雲ですが、あるとき一幅の水墨画から大きな気付きを得ること
になります。その画の作者は、無双の剣客でありながら書画でも非凡な才を示し、
「二天」と号した剣豪・宮本武蔵。草雲がどういう気付きを得たのか、小説原文
を引用させていただきます。

 ――武蔵は天性、巨大な気魂をもって生れつき、その気魂が剣となり、絵とな
った。が、草雲の場合は、気魂は気魂、画技は画技、武術は武術で、三者ばらば
らの他人であった。
 三つが、溶けてない。
 そのため、気魂だけが独走して書画会であばれ、絵をかけば「気魂の表現」と
いうのではなく画技のはしばしにのみ腐心し、剣術をやれば棒振りの機敏さだけ
で、せっかくうまれついた気魂が、剣に宿っていない。――

 その後、草雲は一介の画士でありながら、維新回天の中で故郷足利藩の軍権を
握るようになるのですが、その辺りの話は置きます。ともかくも一枚の画から得
た気付きによって草雲の作風は大きく変化を見せてゆき、後に「明治の二天」と
まで呼ばれるに至ります。本家の「二天」宮本武蔵のように、一個の草雲の中で
画技・武芸・気魂が見事に融和したのでしょう。


 迂遠になりましたが、知識や技術、情意などの様々な要素が個人の中で溶け
あって初めて真価を発揮するというのは、創造性に限った話ではありません。実
践的な問題解決が必要とされるような仕事では、なおさら多種多様なスキル要素
が「その人なりに使い勝手良く」溶けあっていなければ、その人の持つパフォー
マンスや個性を十分に発揮することはできないわけです。

 技術や知識、コミュニケーション能力や協調性などの個別要素や要素的技術は、
それぞれ別個に学ぶことも可能でしょう。場合によっては、それぞれを深く効率
的に学ぶことができるともいえます。しかし、どれだけ個別に詰め込んだとして
も、それらが本人の中できちんと融和できていなければ、結局のところ使い物に
はならないわけです。知識と技能の実践的な修得を旨とする「状況的学習」(状
況主義)と呼ばれる考え方では、学習を「知的作業を遂行するにあたって他人と
協調したり道具を用いられるようになったりすること」と位置付けています。ま
さに、周囲の状況や関わり、必要な道具といったものを自分一個の中に融和させ
ることが大切といっているわけです。それによって発揮されるのが、個性であり、
問題解決であり、創造性なのですね。

 「仕事に各個人の個性や創造性などは必要ない」と言われてしまったらそれま
でなのですが…、幕末に勝るとも劣らない混迷の状況にあるいま、従来のように
様々な技術や能力をただ詰め込ませるだけの学ばせ方では、とても適応していけ
るものではありません。それらを各個人の中でいかに融和できるようにするか。
それが、この難局を乗り越えられる人材――「平成の二天」とまではいかなくと
も――をつくるための一つのヒントとなりそうです。

(引用元:「馬上少年過ぐ」司馬遼太郎著、新潮文庫)


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